
風土・文化から生まれる光と影
写真は当然ながら、光と影に織りなす造形を切り取るものだ。それをあえて、ひとつの編として建てたのは、「日本の佇まい」のなかで、その光と影が日本独特の表現を体現してると思ったからだ。光と影は、地中海での激しくもクリアに造形することも、ロンドンの霧の中で、ぼんやりと都会の風景を浮き出されるのも、中国の北京秋天の明朗さや黄色く空を渦巻く黄砂の中での陰影も、それぞれの表情を現す。
「日本の佇まい」のなかでは、湿度の高さからなのか、そのしっとり感、障子越しの柔らかな日差し、竹林の木漏れ日、庫裏のなかの炊事の煙を透した朝日、そして何よりも小泉八雲が心を寄せた、日本の闇など、日本の風土と文化から生まれる光と影が、独特の世界を造形する。
谷崎潤一郎は、「陰翳礼讃」のなかで、日本人の陰翳への感性をいくつもの事例をあげて、その美を礼賛する。
例えば、「『闇』を条件に入れなければ漆器の美しさは考えられないと云っていゝ。今日では白漆と云うようなものも出来たけれども、昔からある漆器の肌は、黒か、茶か、赤であって、それは幾重もの「闇」が堆積した色であり、周囲を包む暗黒の中から必然的に生れ出たもののように思える。」
あるいは、「室内へは、庭からの反射が障子を透してほの明るく忍び込むようにする。われ/\の座敷の美の要素は、この間接の鈍い光線に外ならない。われ/\は、この力のない、わびしい、果敢はかない光線が、しんみり落ち着いて座敷の壁へ沁み込むように、わざと調子の弱い色の砂壁を塗る。」
そして「もし日本座敷を一つの墨絵に喩えるなら、障子は墨色の最も淡い部分であり、床の間は最も濃い部分である。私は、数寄を凝らした日本座敷の床の間を見る毎に、いかに日本人が陰翳の秘密を理解し、光りと蔭との使い分けに巧妙であるかに感嘆する。」
こうした感性をもって、日本の佇まいを切り取ってみたい。 典然 (谷崎潤一郎「陰翳礼讃」青空文庫kindle版)
