かすみがうら市歩崎付近つくば霞ヶ浦りんりんロード
かすみがうら市歩崎付近つくば霞ヶ浦りんりんロード
かすみがうら市歩崎付近つくば霞ヶ浦りんりんロード
桜川市JR岩瀬駅つくば霞ヶ浦りんりんロード出発点
桜川市真壁町下小幡付近
桜川市雨引山楽法寺(雨引観音)
桜川市雨引山楽法寺(雨引観音)
桜川市真壁町旧真壁駅休憩所
桜川市真壁町重要伝統的建造物群保存地区
つくば市旧筑波駅跡
つくば市旧筑波駅跡(筑波山口休憩所)
つくば市筑波山梅林
つくば市小沢付近
つくば市北条平沢官衙跡
つくば市神郡(田井)付近からの筑波山
前回は「ポタリング」とはなにか、「サイクルツーリズム」の現状について触れたが、今回は「ポタリング」を含めたサイクルツーリズムに熱心に取り組んでいる茨城県で、とくに整備が進んでいる「つくば霞ヶ浦りんりんロード(筑波自転車道)」のルートと観光資源を紹介しつつ、実走体験を通してポタリングの面白さ、楽しさに触れてみたい。
国土交通省は2016(平成28)年に成立した「自転車活用推進法」に基づき、その実施計画として2018(平成30)年に「自転車活用推進計画」の第1次計画を策定し、ナショナルサイクルルート制度を設けられた。このなかには「優れた観光資源を走行環境や休憩・宿泊機能、情報発信など様々な取組を連携させたサイクルツーリズムの推進により、日本における新たな観光価値を創造し、地域の創生を図るため、ソフト・ハード両面から一定の水準を満たすルートを国が指定することで、日本を代表し、世界に誇りうるサイクリングルート」の整備が盛り込まれた。このルートは現在、「トカプチ400」「つくば霞ヶ浦りんりんロード」「富山湾岸サイクリングロード」「太平洋岸自転車道」「ビワイチ」「しまなみ海道サイクリングロード」の6コースが指定されている。
こうした国の施策を受け、サイクルツーリズムに対し熱心に取り組んでいる地域のひとつとして茨城県がある。茨城県は2018(平成30)年に「いばらき自転車活用推進計画」を策定しており、この計画では「『誰もが安全・快適に自転車を活用することができる地域社会の実現』を目指し、『サイクルツーリズム』、『道路空間整備』、『安全教育』、『健康増進』の4つの施策目標を設定し、多くの施策項目を挙げている。
さらに、2019(平成31)年には「いばらきサイクルツーリズム構想」も打ち上げ、「国を挙げてサイクルツーリズム(日本を代表し世界に誇る『ナショナルサイクルルート』の創設等)をはじめとした自転車活用の気運が急速化」していること、「『つくば霞ヶ浦りんりんロード』を活用した地方創生の取組が着実に進展しているが,更なる誘客には情報発信や受入体制の整備などが必要」であること、茨城県の特性である自然環境や地域資源が豊富さを「最大限に活かした全県的なサイクルツーリズムの可能性大」であることなどから「国内外からのサイクリストが何度も訪れたくなる魅力ある『サイクリング王国いばらき』」の実現を目指すとしている。そしてサイクリストのレベルに合わせ、魅力ある資源を繋ぎ、 地域、ルートの特色を反映し、 安全・安心、快適性のサイクリングルートを設定し、整備、活用を図る、ともしている。
そのルートは、全長約180㎞に及ぶ「つくば霞ヶ浦りんりんロード」(大規模自転車道の名称としては「筑波自転車道」と「霞ヶ浦自転車道」)を始めとし、中上級者向けの約185㎞の「奥久慈里山ヒルクライムルート」、海岸線を楽しむ約69㎞の「大洗・ひたち海浜シーサイドルート」、河川堤防を繋ぐ約100㎞の「鬼怒・小貝リバーサイドルート」などの自転車ルートの整備を行うとしている。実際、以前から整備が進んでいる「つくば霞ヶ浦りんりんロード」では、さらなるサポート施設の充実が図られているとともに、他のルートの整備も順次行われている。
「つくば霞ヶ浦りんりんロード」は瀬戸内海横断自転車道(しまなみ海道ロード)ほどのダイナミズムはないものの、JR常磐線土浦駅を結節点に筑波山南麓から西麓を走るルートと霞ヶ浦全周ルートを合わせ、全長約180㎞のルート設定になっており、ポタリングにもロングライドにも耐えられ、筑波山のヒルクライムコース(約25㎞)にも接続している。自転車・歩行者専用道、宿泊施設、休憩施設、サポートサービスなどが順次整備され、現段階でも充実しているといってよい。
そこで「つくば霞ヶ浦りんりんロード」の実走した感想とともに、そのルートと観光資源を紹介してみたい。
全長約180㎞ということだが、ほぼ全線が自転車・歩行者専用道で気持ちよく走行できるので、ポタリングとしては交通の起点によってどこを切り取って走っても良いが、ここでは筑波山の南麓から西麓の関東鉄道旧筑波線の軌道跡に整備された「つくば霞ヶ浦りんりんロード(筑波自転車道)」(以下 「りんりんロード」)の区間を走ってみることにした。
このルートはJR常磐線土浦駅からJR水戸線岩瀬駅間の全長約40㎞、比較的平坦なコースであり、沿線では筑波山の眺望を各所で楽しむことができ、重要伝統的建築物群保存地区に指定されている真壁の街並み、山岳信仰の筑波山神社をはじめ観光資源も多い。まさに初心者向けのポタリングに最適なコースと言って良いだろう。
コース取りとしては、鉄道での輪行を考えるのならば、岩瀬駅を起点にした方が終点の土浦駅に向かって全般的に緩やかな下りなので、ゆったりとして走るポタリング向きだろう。岩瀬駅前広場脇の旅館にはレンタサイクルもあり、土浦駅での乗り捨ても可能だ(逆方向でも可能)。
バスでの輪行でというなら、つくばエキスプレスのつくばセンター駅からバスで筑波山神社入口まで行き、参拝のあと、そこから九十九折りの坂道を自転車で下り、旧筑波駅(土浦駅方面は筑波山口バス停、つくばセンター駅方面は旧筑波駅に近接した沼田バス停もある)から「りんりんロード」に入るとよい。南に向かって土浦駅に向かうのもよし、北上して真壁の街を回ってから土浦に戻るのもよいだろう。なお、レンタサイクルは旧筑波駅(現・バス停筑波山口)にも用意されているが、ここで借りた自転車は乗り捨てができないので、同所に戻る必要がある。できれば、土浦駅、岩瀬駅との相互乗り捨てを可能にして便益性を高めて欲しいものだ。
コースの現況を岩瀬駅から辿ってみたい。岩瀬駅は、鄙びたローカル線の雰囲気そのままで、北側に駅のロータリーがあるものの、商店も少なく、とくに目立った立ち寄り先はない。「りんりんロード」の出発点は南側にあるが、こちらには改札口はなく、小公園と駐車場があるだけである。出発点の小公園から出てすぐに右手に踏切にして一般道を渡り、自転車専用道に入ると、すぐに雑木林に囲まれたちょっとした切通しがあり、いかにも廃線の軌道跡という雰囲気の道となる。
大きく左に弧を描き切通しを抜けると、広々とした水田地帯が南に向け開け、爽快な気分にさせてくれる。しばらくなだらかな下りを走り、北関東自動車道の下を抜け、真壁街道を渡ると、水田地帯の中を少しばかり上りとなる。それを上りきると、南に向け、緩やかな下りに入り、さらに進むと一気に平野の視界が広がり、左手には加波山、筑波山の山並みが眺望できるようになる。ここまで走ってくると、この自転車道の整備がよく行き届いているのが分かる。路面状態もよく、標識、進路指示、距離程標識も的確であり、一般道路との交差についても、自転車道の優先が多く、大きな道路での一時停止、渡り方にも丁寧な案内が表示されているため、安全に気持ちよく走ることができる。
岩瀬駅から4㎞ほど走ると、雨引観音の看板がみえるようになる。「りんりんロード」から2.8㎞ほど左手の山腹にあり、後半の1kmほどは上りがきついので、ミニベロでは厳しいことは間違いないものの、出来れば立ち寄りたい。
雨引観音の山号寺号は雨引山楽法寺と称し、坂東三十三ケ所第24番札所。加波山の尾根続きになる雨引山の中腹斜面に真壁城の薬医門を移築した黒門をはじめ、仁王門、本堂、鐘楼堂、多宝塔、本坊、客殿など多数の堂宇が甍を並べ、仁王門の脇には城郭を思わせる大石垣がそびえる荘厳な寺で、586(用明天皇2)年中国の帰化僧法輪独守の創建と伝えられている。山腹の駐車場や駐輪場のある広場から黒門をくぐり、145段の石段の磴道(とうどう)に入ると、石段の両側はこんもりとした林やアジサイの植栽が続き、その先の仁王門には、慶派の仏師作の金剛力士像が毅然と立っている。さらに登り左に折れると朱が際立つ17世紀末の建造といわれる観音堂が、大屋根を広げている。振り返ると真壁の田畑や家並みが樹幹越しに見え、加波山や筑波山の山並みが遠望できるので、厳しい上りを忘れさせるものはある。
雨引観音入口から正面に筑波山を見ながら、広々とした水田地帯を6kmほど南下すると、旧真壁駅でトイレ施設もある休憩所となっている。ここは街並みをポタリングするのには格好のところ。真壁は律令期(7世紀後半~10世紀)から国府(現・石岡市)と東山道をつなぐ要衝の地にあり、中世には真壁氏の支配のもと城下町が形成され、近世には、笠間藩の陣屋を中心に木綿などの物産の集散地と栄えた。このため、真壁の街並みの特徴は、中世城下町と近世陣屋町の遺構を残すとともに、木綿などの集散地としての町割りも遺る。また、江戸後期の大火からの再建や明治期以降の製糸業の興隆に伴う見世蔵、土蔵、大正昭和に建てられた洋風建築など、多様な建造物が入り混じりながら調和しているのも、この街並みの特徴だ。現在も約100棟の登録有形文化財をはじめ多数の伝統的な建物が現存し、約17.6万㎡が国の重要伝統的建造物群保存地区になっており、「りんりんロード」のポタリングの最重要ポイントといってもよかろう。
真壁を過ぎると、どんどん筑波山の山影が大きくなっている。途中、桜並木も密になりはじめ、快適なポタリングとなる。真壁の休憩所から筑波山の西麓を巻くように約10㎞走ると旧筑波駅(現・筑波山口バス停、あるいは沼田バス停)の休憩所となる。ここは筑波山神社への入口となるが、2.5㎞、標高差200m以上の九十九折の上りになるので、ポタリングとしてはきつい。この区間は沼田バス停から路線バスで所要7分程度(昼間は30分1本程度ある)なので輪行するのも手だろう。あるいは、旧筑波駅の休憩所に自転車を置き、路線バスでの往復もよいだろう。それだけの価値はあると思う。
筑波山神社は、筑波山の中腹、老杉に包まれた境内に大きな鈴が印象的な拝殿をはじめ堂宇が並ぶ。本殿は男体山と女体山の山頂付近にある祠で古代の山岳信仰を今も伝えており、2峰寄り添う姿は男女陰陽・夫婦和合の神にふさわしい。平安時代に僧徳一によって知足院中禅寺が開かれ、筑波の神は筑波両大権現と呼ばれて神仏習合した。皇室、公家、武家の信仰も篤く、江戸幕府の歴代将軍も江戸城の鬼門にあたるとして崇敬した。三代将軍家光が1633(寛永10)年に寄進した、摂社の日枝神社、春日神社、鹿島神社の本殿、拝殿などは現在も境内に遺されている。明治の廃仏毀釈により、筑波山神社となり、現在の拝殿は1875(明治8)年に中禅寺本堂跡地に造営されたものだ。随神門から神橋、石鳥居周辺には門前町が広がり、かつての繁栄を偲ばせる。また、土日、祝日には、随神門周辺で筑波山名物のひとつである「ガマの油口上」の実演が催される。近接して敷地4万5000㎡に約1000本の梅が植えられている筑波山梅林があり、2月中旬から3月下旬には「梅まつり」も開かれる。
旧筑波駅(筑波山口)の休憩所を出て、しばらくすると左手に国道125号線を挟み、やや高台に北条の町が広がる。ここは筑波山神社の参詣路「つくば道」の宿場としても栄え、古い家並みも遺っていたが、2012(平成24)年の竜巻の被災によって大きな被害を受け、その面影を遺すものは少なくなった。ただ、街並みの東側の丘陵には、古代、中世の筑波郡の役所跡である平沢官衙遺跡があり、広々とした芝生公園に整備され筑波山を背に復元された高床式の建物が建っている。「りんりんロード」からは1.5㎞ほど離れるが、休憩場所としては絶好だ。そこからさらに緩やかな坂道を登れば、古くからの参詣路「つくば道」沿いの神郡の集落があり、古い家並みが続く。ここからは裾野を伸びやかにみせる筑波山の美しい山容を見渡すこともできる。
「りんりんロード」に戻れば、まもなく小田の集落に入ると旧小田駅の休憩所となり、その南側に小田城跡が広がる。小田城は「鎌倉殿の13人」にも数えられる八田知家の末裔で鎌倉から戦国時代まで常陸国の南部に勢力を有していた小田氏の居城であったところだ。現在は遺構の発掘が進み、公園として整備されている。小田休憩所は城跡の案内施設にもなっている。「りんりんロード」は本丸や堀の間を縫うように走り、愉快な景観を提供してくれる。
北条からの沿道には桜並木が小田の集落を過ぎても延々と続く。間もなく土浦市に入るが、ここでは「りんりんロード」に沿い、背丈ほどの土筆型をしたステンレス製の奇妙な柱(ピラー)10本が1kmに渡り点々と並ぶ。これは「距離標準比較基線場」というつくば市にある国土地理院の施設で、測量機器の性能を点検するためのものという。突如現れるこの風景にはちょっと自転車を止めたくなる。
土浦市街に近づくと、蓮田が多くみられるようになり、沿道の桜並木の密度もさらに高くなる。そして、量販店や民家、マンションの間を縫って終点の土浦駅に着く。
なお、土浦駅から2㎞ほど手前の国道125号線との交差点で「りんりんロード」からはずれ右折すると、約700mのところには江戸幕府の要職についていた譜代大名土屋氏の居城土浦城の城跡である亀城公園があり、ここでは江戸時代初期に建造された太鼓櫓が見学できる。さらに、この公園から城下町の雰囲気が残る「中城通り」を経て土浦駅までの1.1kmほどのルートもポタリングには適している。
終点の土浦駅の駅ビル「PLAYatre」は、サイクリングのサポート施設となっており、1階、地下1階にはBIKE BASE 「りんりんスクエア土浦」があり、3階から5階には自転車も部屋に持ち込めるサイクリングホテルもある。「りんりんスクエア土浦」ではレンタルバイク、ロッカー、シャワー室、更衣室、駐輪場などが完備している。
土浦駅はつくば、岩瀬方面へのルート以外にも霞ヶ浦方面への起終点としても利用でき、そのサポート体制は充実しているが、ルート案内表示の不足、とくに外国語表示が不十分な点など、まだ改善の余地はあろう。「つくば霞ヶ浦りんりんロード」の実走体験から言えば、岩瀬方面も霞ヶ浦方面もロングライドはもちろん、沿線に観光資源が豊富なところから初心者向きの「ポタリング」には絶好のルートであることは間違いない。さらにコース維持や拡充、沿線の観光資源との連携、サポート体制の充実など、継続的な取り組みを望みたい。
この「つくば霞ヶ浦りんりんロード」のように「ポタリング」向けにも適合できる多面的な整備がなされたコースが全国各地に増えることによって、観光地、地方における滞留時間が延び、交流の場が広がり新しい観光需要が創造され、地域の活性化や消費喚起につながることを期待したいところだ。
参考引用文献
ケンブリッジ英語辞典
https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/pottering
日本自転車文化協会
http://www.jba-rw.org/topics/aboutbicycle_histry_1.html
日本サイクリング協会
https://www.j-cycling.or.jp/about/
大森宣暁「わが国の自転車文化に関する一考察-ママチャリに着目して-」国際交通安全学会誌 2021年10月Vol. 46, No. 2
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iatssreview/46/2/46_139/_pdf
茨城県「サイクリング環境の整備」
https://www.pref.ibaraki.jp/doboku/doiji/doro/03life/cycle_sokushin.html
国立国会図書館保存:国土交通省HP大規模自転車道(2017年6月6日時点)
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10369770/www1.mlit.go.jp/road/road/bicycle/road/index.html
国土交通省 「ナショルサイクルルート」HP
https://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/good-cycle-japan/national_cycle_route/